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株式会社ソシオ エンジン・アソシエイツ


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環境会議

企業の戦略的な環境 コミュニケーションを考える
環境会議 2007春号 P.254 - 259

西山 庭子 (にしやま にわこ)
株式会社ソシオ エンジン・アソシエイツ

説明責任から双方向性へ

企業の社会的責任(CSR)をめぐって、環境をテーマとするCSR活動に取り組む企業が増えてきているが、今や単なる慈善活動にとどまらない、継続性のある、企業と社会の両方にとって意義のあるCSR活動が求められるようになってきている。「社会的責任」の中でも特に環境をテーマとした活動に取り組む企業が多いが、「なぜその企業がその環境問題に取り組むのか」「本当に意義のある取り組みなのか」ということがステイクホルダーから厳しく問われるようになってきた。環境コミュニケーションは、そうした疑問に答え、企業としての価値観やメッセージを分かりやすく伝えるための手段である。
企業の環境問題に対する取り組みは、ISO14001の取得など環境管理システムを整えることから、企業の本業を通じて、その商品開発力やマーケティング力を生かして戦略的に取り組もうとする姿勢へと進化してきている。そうした中で環境コミュニケーションを有効に活用することができれば、企業の環境活動はより多くのステイクホルダーからの支持を得ることができ、企業のブランディングやレピュテーションの向上につなげることができる。ただの活動PRや説明責任を果たすことにとどまらず、双方向性のあるコミュニケーションへと発展させることが、ステイクホルダーからより信頼を得て、活動の質を高め、持続可能な社会経済システムを実現することへとつながる。
以下では、最近の企業の環境コミュニケーションに関わる興味深い事例を取り上げながらその潮流を概観し、最後にまとめとして、今後日本で求められる環境コミュニケーションについての考察を述べる。



ステイクホルダーに応じたツールと仕組みの開発 「顧客」の明確化

環境コミュニケーションは、IRと異なりマルチ・ステイクホルダーを対象とするコミュニケーションとして広く社会全体の環境への意識向上に貢献するものである。環境コミュニケーションのツールとして定着しつつあるのが「環境報告書」「CSR報告書」などの報告書であり、現在日本国内で1,000社を超える企業が発行している。しかしこうした報告書類は、広く一般に向けて企業の環境・社会活動を伝えることを目的としてつくられているものの、関係者や専門家などを除いてごく一部の環境に関心が高い大人にしか手に取ってもらえていないという悩みもある。
そうした中で(株)バンダイでは、2006年11月から、子どもが読むことのできるエコ冊子『エコってなあに?―バンダイ環境BOOK2006』(その1〜その4)を発行し、玩具パッケージに同封する取り組みを始めた。2005年度は環境報告書のダイジェスト版を玩具のパッケージに同封したが、今回は「親子」に環境報告をするというスタンスで、“親が子どもに説明しやすい小冊子”を作成した。同社にとってキーとなるステイクホルダーである「子ども」とその「親」を、環境報告書を届けたいステイクホルダーの対象として明確化し、それに応じた報告書の作成と配布の工夫を行っている。

「社員」に対する取り組みの進化

企業の核となるステイクホルダーである社員に対して、環境配慮への価値観を共有していこうとする取り組みも増えてきている。そのコミュニケーションの手法は、社員がただ参加するプログラムではなく、社員が主体的に参画できるプログラムの開発へと進化してきている。社員との環境コミュニケーションが促進されることに関しては、会社に対する誇りや仕事への満足度の向上、あるいは業績のアップにつながると言われることもある。
(株)デンソーの “デンソーエコポイント制度(通称:DECOポン)”は、2006年12月18日に開始された社員向けの環境コミュニケーションである。その特徴は、身近なことから気軽に楽しく始められるエコ活動を促進していることであり、“楽しくエゴなエコアクション”を社員とその家族に呼びかけている。「デンソーエコビジョン2015」に社員一人ひとりが共感し、自分のこととして一緒に取り組んでほしいという思いから作られた制度である。ゴミ拾いや環境家計簿の記入、フェアトレード商品の購入など、環境に配慮した日常の行動に対して会社がエコポイントを発行するという仕組みで、貯まったポイントはエコ商品との交換や地域の環境活動への寄付に利用できる。社会的ミッションを持つ団体とコラボレーションし、EXPOエコマネー事業(環境通貨)を活用している点にも工夫が見られ、自発的に参加したくなるような仕組みを作り出した。
シャープ(株)の環境教育活動は、社員を巻き込みながら地域にも貢献する取り組みとして工夫がなされている。社内公募で環境教育を推進する「ECO・ナビゲーター」と呼ばれる指導員を約50人養成し、2006年10月からNPO法人気象キャスターネットワークと連携して、天気キャスターと一緒に地域の学校で出前授業を実施している。環境教育を実施できる社員の人材育成を行っている点、気象変化の話を加えることで更なる意識向上を目指し、ふさわしいNPOと協働した点、また育成した指導員を各都道府県に一人ずつ配置し、地域にあった決め細やかな環境教育の実施を目指している点で、目線の高い社員参加型の環境教育活動を生み出している。

キャンペーン型展開の増加

より広く一般の人々に向けたコミュニケーションの手法として、マスメディアを使ったキャンペーン型の環境コミュニケーションも増加してきている。シャープがテレビCMや新聞広告でPRしている「亀山液晶物語」のシリーズ広告のような1社展開型も増加しているが、あるテーマの下に複数の企業が名を連ねる、企業連合型のキャンペーンも増えてきている。例えば複数の環境NGOの呼びかけから始まり、多くの市民、企業が参加するようになった「100万人のキャンドルナイト」や、環境省地球環境局が運営し、2007年2月現在10,000以上の法人・団体が参加する「チームマイナス6%」、読売新聞と日本テレビが地球環境保護を掲げて複数企業と実施している「地球を守れ!アンパンマン」キャンペーン、グリーン電力証書システムに参加する企業が集まった、自然エネルギー発電を支援するキャンペーンなどがある。

本業にまつわるコーズを明確化

マーケティングに戦略的に環境コミュニケーションを取り入れることでステイクホルダーの支持を広げ、レピュテーションの向上、企業ブランディングにつなげていくことのできる企業とは、独自のコーズ(主義・大義といった意味で、ここでは解決すべき社会的課題を指すこととする)テーマを持って意義のある環境活動を行っている企業である。ステイクホルダーからは、会社が本業として関わるべきコーズが何であるかということを精査し、それを具体的に意義のある分かりやすい活動へと落とし込んでいくことが求められている。

環境コミュニケーションからCSRコミュニケーションへ

企業が持続可能な社会の実現に貢献するためには、環境だけでなく貧困、人権、平和、健康etc.など広範な社会的課題にも対応していく必要がある。2002年のヨハネスブルグ・サミットでも議論されたように、持続可能な開発には環境問題に社会問題を含めた広義な課題が含まれている。企業はその企業ならではのコーズテーマを見つけ出し、それぞれの得意分野から持続可能な社会づくりに参画していくことが期待されている。環境だけにとどまらない、企業独自の社会的事業や社会貢献活動を生み出すと共に、CSRコミュニケーションを通じてその活動の質を高めていくことが求められる。
松下電工(株)が展開する住宅リフォーム事業「わが家、見なおし隊。」では、「環境と福祉」をテーマとして、環境負荷が低く、かつUD(ユニバーサルデザイン)を追及した商品の開発をしている。住宅に対する社会のニーズの多様化を背景に、環境に加えて福祉というテーマを取り上げ、そこにUDという切り口で貢献している。
環境テーマとは別の部分で本業に関わるコーズを明確にし、それをキャンペーン展開に結びつけたことで効果的なCSRコミュニケーションを実現した事例としては、1993年にアメリカの化粧品会社エイボンが始めたピンクリボン活動が特徴的である。乳がんの早期発見・治療を啓発するキャンペーンで、女性をターゲットとした会社ならではのコーズを扱ったことで、参加企業が拡大する中でも、エイボンにとって象徴的でメッセージ性の高いキャンペーンであり続けている。会社にふさわしいコーズをテーマにキャンペーンを展開し、社会的課題の啓発及び企業価値を高めた点で参考になる。
これからの環境コミュニケーションは、広くCSRコミュニケーションの中に位置づけて、そのアプローチや企業独自のテーマ設定について議論がなされていく必要がある。また、コミュニケーションのツールや仕組みが進化することで、企業とステイクホルダーとの双方向の対話が促進される。それによって、環境や社会に対する社会全体の意識を高め、企業のCSR活動の質を高め、事業活動のパフォーマンス向上につなげることができる。アメリカでの先進的な事例も参考としながら、日本ならではの戦略的なCSRコミュニケーションが発展していくことが期待される。
(宣伝会議発行「環境会議2007年春号」掲載)