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環境会議

社会的課題で商機をつかむ コーズ・マーケティング・フォーラム06
環境会議 2006秋号 P.164 - 168

大橋 綾 (おおはし あや)
株式会社ソシオ エンジン・アソシエイツ 執行役員
テレビ番組などを活用した、国際協力に関するコミュニケーション・コンサル、プロデュースを手がけた後、ソーシャル・コミュニケーション、ソーシャル・ビジネス開発を専門とするコンサルティング・ファーム、株式会社ソシオ エンジン・アソシエイツ創設に関わる。2001年5月より現職。

マーケティング活動の次なる模索

エイボンの「ピンクリボンキャンペーン」や、アメリカン・エキスプレスの「自由の女神修復資金寄付キャンペーン」などに代表されるコーズ・マーケティング。直訳すると「大義のマーケティング」ということになってしまうが、いわば、「医療、福祉、文化、環境、教育など、様々な社会的課題の解決に寄与しつつ、企業の経済活動も促進することができるマーケティング活動」ということができる。
このコーズ・マーケティングであるが、米国では年々動きが盛んになってきており、企業、NPO、コーズ・マーケティング実施支援組織の三者を結びつける場として、毎年「コーズ・マーケティング・フォーラム」が開催されている。
今年で4回目となる同フォーラムであるが、これはCause Marketing Forum, Inc.(以下CMF)が主催している年次イベントである。CMFは、代表のDavid Hessekiel氏によって、2002年に設立された会社である。CMF設立以前、Hessekiel氏は企業に対するPRコンサルティングを行っていたが、ある時期からNPOと連携したPR(コーズ・マーケティングの原形)に関する相談を多く受けるようになった。しかし当時は、企業とNPOとのパートナーシップを構築するための出会いの場もなく、情報も不足していた。このため、CMFを設立し、関係者間での情報交換やパートナーシップを促進することのできる場を設定し、それによってコーズ・マーケティングの動きを促進していくことができるのではないかと考えた。そして、コーズ・マーケティングの第一人者であるCarol Cone氏(Cause Brandingの商標登録を持つCone, INC.の創設者)や、ユニセフ、メイク・ア・ウィッシュ、アメリカ赤十字をはじめとする大手NPOなどの協力を取り付け、「コーズ・マーケティング・フォーラム」を実現させたのである。
今年の「コーズ・マーケティング・フォーラム(以下、フォーラム)」は、6月13日、14日にニューヨークのマリオット・マーキース・ホテルにて開催された。参加者は約400名。アメリカだけでなく、イギリス、カナダからも参加している。初年度の参加者が約80名であり、4年でおよそ5倍の参加人数になっていることからも、コーズ・マーケティングに対する関心の高まりがうかがえる。フォーラムには、企業、NPOがバランスよく参加しており、特に企業では、日本でも認知度の高い企業として、ディズニー、アメリカン・エキスプレス、エイボン、ピザハット、ダイムラー・クライスラー、フリトレー、インターコンチネンタルホテルグループなどが参加している。また、エージェンシーという立場でコーズ・マーケティング実施支援を専門に行うコンサルティング、PR会社も多数参加している。そのような企業と協力関係を持つ当社も、エージェンシーという立場で、日本から唯一参加した。



昨年の注目課題はハリケーン・カトリーナ

フォーラムは、初日の13日がメインのカンファレンスとなり、14日は希望者のみが参加することができるワークショップとなっている。カンファレンスは早朝から夕方まで、「コーズ・マーケティング・キャンペーンの効果を増大させるには」、「Y世代へのアプローチ手法」、「新しいコーズへの対応」、「従業員の巻き込み方」など、様々なテーマによるスピーチや分科会で展開されるが、目玉となるのは「CMF Golden Halo Awards」である。これは優秀なコーズ・マーケティング・キャンペーンを表彰するものであり、フォーラムの開催にあわせて毎年行われているものである。エイボンやアド・カウンシルの担当者など8名が審査委員となり、社会面、経済面、共にどれだけ影響を与えることができたかを主な基準として審査されるもので、今年は8つの部門に約70件の応募があった。
またこれら8つの部門賞とは別に大賞が設定されているが、今年は、ハリケーン・カトリーナ被災者への対応という、タイムリーで話題性があり、かつ深刻なコーズ・テーマで効果をあげたホームデポ(世界最大規模のホームセンター)のプロジェクトが受賞している。これはアメリカに住む全ての子どもたちに、彼らが歩ける範囲内に遊び場をつくることをミッションとして活動しているNPO、KaBOON!と協働して展開したプロジェクトであり、ハリケーン・カトリーナで崩れ去ってしまった子どもたちの遊び場を再建するものである。遊び場の再建には、ホーム・デポの商品であるDIYグッズが直接使われることになる。様々なコーズ・テーマの中で、「貧困」でもなく、「環境」でもなく、「災害で崩れ去った遊び場の再建」というテーマを選定したことは、消費者に対して「子どもたちに遊び場と夢を与えるDIY商品を販売しているホーム・デポ」というイメージをダイレクトに喚起させることができるため、社会的インパクトだけでなく、マーケティング的視点からも、最適なコーズ・マーケティング展開を図っているということができる。
一方、部門賞であるが、中でも注目を集めていたのは、メッセージの訴求性の強さを評価する「Best Joint Message賞」、クリエイティブ面を評価する「Best Print Creative賞」の2部門で、それぞれ銀賞と金賞を受賞したアルド(靴メーカー)が展開するティーンエージャーのエイズ撲滅キャンペーン「Hear No Evil, See No Evil, Speak No Evilキャンペーン」だ。これは、YouthAIDSというNPOと協働して展開しているキャンペーンであるが、トップフォトグラファーを起用し、シンディー・クロフォード、アブリル・ラヴィンなど、ティーンエージャーに人気のある歌手、タレント、女優、俳優、モデル、ラッパーなど約20名が、それぞれ目や耳や口を閉じ、「見ざる」、「言わざる」、「聞かざる」のポーズを取るというインパクトのあるクリエイティブを展開しているものだ。店舗では、ポスターなどのディスプレイに加え、エイズ撲滅を象徴するリボンのマークが刻印されたセンスの良いエンパワーメント・タグ(銀色のタグがついた皮ひものペンダント)も販売されており、その売り上げは全額YouthAIDSに寄付されている。アワードの受賞コメントとして同社は、「昨年度からキャンペーンを開始し、今年2年目の展開であるが、昨年度の売り上げが倍増した」と語っていた。
米国ではこのようにコーズ・マーケティングが一般的になり、その投資額も年々増加している。一方日本でも、コンプライアンスやガバナンスなど、“守り”のCSR活動は定着しつつあり、今後は企業イメージの向上や販売促進に直接結びついていくような、積極的、戦略的な“攻め”のCSR活動が必要になってきているように見受けられる。このことは、ホワイトバンドなどの社会的キャンペーンの流行や、ハイブリッドカー、有機野菜、無添加食品などの、環境や健康に配慮した商品の売り上げ増加など、消費者ニーズの変容でも明らかとなっているため、今後は日本においても、コーズ・マーケティングが拡大していくものと思われる。
(宣伝会議発行「環境会議2006年秋号」掲載)